スマートグリッドは、字義を見ると「賢い送電網」となるが、筆者はこのコンセプトが、技術・制度・金融を抱合した、一つの産業のまとまりや、ライフスタイルを指し示す言葉として、用いられるようになると考えている。
例えば、ITという言葉は、字義は「情報技術」であるが、いま、IT産業と言えば、コンテンツや様々なアプリケーションも含むビジネスが想起されるであろう。
スマートグリッドは、再生可能エネルギー、省エネルギー、効率的な発電・蓄電にとどまらず、電気自動車などのアプリケーションをも含み、グリーンビジネス&クリーンテクノロジーで話題にのぼる、一見バラバラのビジネスや技術を、インテグレート(統合)し、結びつける技術であり、制度・政策の領域を示すコンセプトでもある、と筆者は捉えている。
NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が参加するニューメキシコ州の「グリーングリッドコンセプト」でも、実証実験の項目として、「発電、太陽光、太陽熱、太陽光・熱ハイブリッド、地熱、風力、バイオマス、蓄電、電気、物理、熱、化学、地熱、次世代交換器、マイクログリッド制御システム、配電設備保護、通信システム、スマート家電、シミュレーション・モデリング、規制・政策、グリーンものづくり」が対象となっている。スマートグリッドは、電気やエネルギーだけではなく、ITやコンテンツ、家電、車、交通、住宅などを含む包括的なコンセプトなのである。
このスマートグリッドの実証実験などに、全米で日本円にして3700億円余りの政府資金が、30〜50箇所の実証サイトに割り当てられる見込みだ。
下の図をご覧いただきたい。ニューメキシコ州政府は、積極的なイニシアティブを発揮して、州内で数箇所の5MW級のマイクログリッドの実験サイトを計画している。そのうち、1箇所は日本からの資金を元に実施されることになっており、アルバカーキのような都市部を想定した実験サイトを予定している。

出展:NEDO
渡辺氏によれば、「ニューメキシコ州には、有名なアメリカ国立ロスアラモス研究所に加え、サンディア国立研究所が所在し、さらに、近隣のカートランド空軍基地や、コロラドから国立再生エネルギー研究所などの参加が期待される」そうだ。「日米の協力で、両国の技術を反映させた世界標準作りには好適地」とされ、全米の多くのプロジェクトの中でも、今回のプロジェクトの意義がうかがえる。

これらの数字は、あくまでも概数であり、スマートグリッドの意味する範囲も、まちまちではある。ただし、スマートグリッド産業の中で、この金額は、ハードのインフラ部分のみの金額である。ハード面でも、これに加えて 風力、太陽エネルギー、バイオマスなどの新エネルギー設備の建設への投資が加わる。さらには、ソフト面として、スマート家電、スマート住宅、電気自動車などの様々なアプリケーションへの投資を呼び込むことになる。
アメリカ一国を見ても、これらの膨大な資金の出し手は誰になるか、ファイナンスの枠組みは、これから、プロジェクトに応じて、具体化されていくことになる。
単純な比較は出来ないが、日本を例にとると、戦後、郵便貯金を原資とした、財政投融資を用いて、高速鉄道や、高速道路、ニュータウンなどを建設してきた。また、ガソリンを買う人に特定目的税を賦課することによって、道路建設が強力に推進される仕組みが出来上がった。
電力の分野でも、ドイツなどで始まった固定価格買取制度(FIT=フィード・イン・タリフ)は、電気を買う人に、特定目的の税を賦課することによって、再生可能エネルギー(風力や太陽光)の建設や、技術開発を一気に促進させた。制度の工夫としては、時限措置とすることにより、早く導入した者により手厚いインセンティブが与えられ、一定期間が経過した後は、市場による需給に戻る工夫がなされている。
スマートグリッドは、地球温暖化問題ともリンクしていて、地球温暖化問題の解決の有効な方策であることから、CO2などを売ったお金が、スマートグリッド産業への投資に活用される案も検討されている。制度や金融の枠組みは、いまのところ混沌としていて、政治・政策の影響が大きいことから、ビジネスとしても、各国・国際機関の政策を注視することが求められる。
世界経済は、2009年後半には、政府部門からの資金の供給(需要の創出)によって、景気は持ち直すと見られている。また、新興国において、民需が持ち直す動きも見られる。
いずれにしても、グローバル経済は、次の成長セクターを求めている。スマートグリッド産業は、10年、20年単位の長期にわたって成長していくイメージではあるが、政府部門に後押しを受けて、この1、2年の立ち上がりは非常にスピーディーとなるのではないか。
各企業においては、スピーディーかつ的を絞った投資を行えば、バブルに巻き込まれる心配は少ないと言えそうだ。