2009年08月09日

この時期に電気自動車をお披露目した日産“お家の事情”

この時期に電気自動車をお披露目した日産“お家の事情”

 日産自動車は8月2日の日曜日、横浜市で新本社の竣工式を行い、その場で同社の期待を集める電気自動車「リーフ」(「葉」の意)のお披露目を行った。竣工式には、小泉純一郎元首相らの政治家が来賓として参加して、この場のお祭りムードをおおいに盛り上げた。

 だが、肝心のリーフの発売は、来年度の後半のことに過ぎない。なぜ、日産は、時期外れで、間延びする感を免れえないはずのリーフのお披露目を、あえて、このタイミングで強行したのだろうか。

 41年ぶりの創業の地・横浜市への復帰―。

 2004年6月の計画の発表以来の懸案だった本社移転プロジェクトを、ついに日産は実現した。横浜市西区のみなとみらい21地区に完成した新本社ビルは、地上22階、地下2階建ての威容を誇る。床面積は約80000平方メートルに及び、2800人の社員が勤務する巨大オフィス・ビルになるという。

 新本社ビルは、積極的な外気の活用、効率的な空調システムの採用、そして資源の再利用などに努めた結果、CO2の排出量が年間10200トンと東京・銀座の旧本社ビル(本館、新館の合計)に比べて3800トンの削減を達成したそうだ。

 2日に行われた竣工式には、小泉元首相だけでなく、松沢成文神奈川県知事、7月に辞意を表明し物議をかもしたとはいえ、まだ現役の中田宏横浜市長ら、地元を代表する政治家が勢揃いして、出席者たちを驚かせた。中でも、中田市長は、1933年の創業の地への帰還を果たしたことに「日産、お帰りなさい」と挨拶し、お祝いムードを盛り上げたらしい。

 そして、日産が、この竣工式のもうひとつのサプライズとして準備したのが、同社の大型戦略商品である電気自動車リーフのお披露目だった。

 リーフは、リチウムイオンバッテリーを搭載した量産電気自動車だ。1回の充電によって、実用に必要な160キロメートルの連続走行を可能にしたことが売り物だ。最高速度は時速140キロメートルに達する。国による手厚い補助が前提とはいえ、価格も「お求めやすい価格」を実現すると強調している。

 日産のカルロス・ゴーン社長は「エミッションが少ないのではない。エミッションがゼロとなるクルマだ。新しい時代に向けた最初の一歩である」と誇らしげに胸を張った。

新聞報道によると、日産の計画は強気そのものだ。同社は2010年度後半に、リーフを内外の市場に投入する計画だが、まず、初年度の目標生産台数を5万台と、先行する三菱自動車、富士重工業の実績を大幅に上回る水準に設定している。そのうえで、2012年度までに、さらに20万台まで引き上げて量産効果を追求する戦略を築いている。

 この野心的な計画に対し、惜しみのないリップサーブスをしたのが、竣工式に列席した小泉元首相だ。元首相は、「意外とスムーズで、静かでねぇ、スーッと。」と褒めちぎった。そのうえ、「きっと普及すると思う」とも付け加えた。

経営再建の切り札を欠く
ゴーン日産の危うさ
 4日までに出揃った最新の業績(2009年4〜6月期決算)に目を転じると、ゴーン社長の強気が裏付けられているように見えなくもない。

 というのは、依然として、世界経済が「100年に1度」と言われる経済危機から抜け出せないでいる中で、日産は116億円の営業黒字を確保したからだ。黒字組みは、日産のほか、ホンダ(251億円)、スズキ(68億円)をあわせた3社しかなかった。

 対照的に、“巨艦”トヨタ自動車は、1948億円のマイナスとほとんど2000億円近い営業赤字を計上した。他の3社をみても、三菱自動車(296億円の赤字)、マツダ(279億円の赤字)、富士重工業(196億円の赤字)とそろって営業赤字を抜け出せなかった。

 とはいえ、メディアや自動車業界関係者には、ゴーン日産の勇ましい計画に首を傾げる向きが少なくない。

 なぜならば、トヨタとホンダがすでにハイブリッド車という確固たるヒット商品を生み出して、経営再建の足掛かりを見出しつつあるのに対し、日産にはそういう切り札が見当たらないからだ。

 この危うさを最も鮮明に批判したのは、日頃から歯に衣を着せぬ論評を得意とする英フィナンシャル・タイムズ紙である。同紙は「日産は“大衆市場向け”リーフで電気自動車の未来を切り開く」と皮肉たっぷりのタイトルを付けた記事の中で、「日産リーフの道のりは、長いものになりそうだ。置かれた立場は、(破たんし、米政府主導で再建中の)ゼネラル・モーターズ(GM)にそっくりだ」と日産の戦略を酷評した。

その理由として、同紙は、唯一、ガソリン車の代替商品に成長しつつあるハイブリッド車の分野で、日産がGMと同様に「ライバルのトヨタとホンダに大きく水を開けられている」点を指摘した。実際のところ、その出遅れを埋めるため、日産が、トヨタのハイブリッドシステムを搭載したセダン「アルティマ」を米国で販売しているのは事実である。

 さらに言えば、ヒット商品を持たない日産の危うさが鮮明になる“事件”が、米国の新車販売市場で7月に起きた。

 同市場はこの月、7ヵ月ぶりながら、年換算で1000万台ペースの販売を回復した。全体にやや明るさが出てきたのである。ところが、この傾向に反して、1−7月合計の各社別シェアで、日産は韓国のヒュンダイに抜かれる不本意な結果に終わった。

 かつては、トヨタと2社で米市場を席巻する勢いのあった日産だが、退潮は隠しようがない。以前にホンダに抜かれて置き去りにされたのに続き、この1−7月は韓国メーカーにまで抜かれてしまったのである。残念だが、ライバルと違い、米市場全体の回復傾向をとらえるのに必要な魅力的なヒット商品を持っていないことの弱みが歴然になっている。

リーフ開発で融資を受け
計画は順調と誇示する必要も
 一方で、リーフのお披露目については、退潮傾向の中にあっても、「日産には順調に開発が進めていると内外に印象付ける必要があった」(銀行系証券のアナリスト)と指摘する向きもある。

 どういうことかというと、リーフがハイブリッド車と異なる最大の特色は、「ゼロ・エミション」(CO2の排出ゼロ)という点にあるが、日産には、その開発・生産などの名目で日米欧の政府・公的機関から公的な支援を受けてきた事情があるからだ。

 その公的支援の例をあげると、日産は今年6月、米エネルギー省から16億ドル(約1540億円)の低利融資を受けたことを公表している。このほか、7月には、ルノーとのアライアンスで、イギリス、ポルトガルの両政府から財政支援の約束を取り付けたことも発表した。

これらはいずれも、リーフやリーフのために開発されたリチウムイオン電池の製造工場の建設が支援の対象だ。こうした背景があるからこそ、日産はリーフの開発・投入計画が順調に進んでいると誇示しなければならなかったというのである。

 だが、最後に技術的な側面をみると、リーフがまだ多くの解決しなければならない問題を抱えていることに驚かされる。

 第一は、価格の問題だ。前述のように、日産はリーフを「お求めやすい価格」で販売すると強調している。しかし、爆発的な人気を博しているトヨタのプリウスは205万円。ホンダのインサイトに至っては、185万円というリーズナブルな価格である。日産が、リーフの価格を、これらのハイブリッド車並みに抑えるのは、「ほとんど困難だろう」(自動車業界関係者)。

 というのは、すでにゼロエミッション型の電気自動車を商品化している三菱のi-MiEV が459万9000円、富士重のステラが472万5000円と「お求めやすい価格」を実現できていないからである。2009年度については、国からi-MiEVに139万円の補助金が付くうえ、独自に補助金を交付する自治体もあり、かろうじてハイブリッド車に対抗しているのが実情だ。しかも、この2つの電気自動車は軽自動車がベースなのに対し、リーフは標準サイズの小型車である。低価格の設定は、容易なことではない。

 さらに、160キロメートルという航続距離にも不安が残る。というのは、こうした数値は、発電しながら走行できるガソリン車やハイブリッド車と違い、リーフの場合、現実味のないカタログ数値になる懸念があるからだ。

 換言すれば、「エアコンやヘッドライトなどを使用した途端、航続距離が激減するのは必至」(同)というのが実態という。この点では、トヨタ―パナソニック(三洋電機を買収)や、ホンダ―ジーエス・ユアサバッテリーといった組み合わせに比べて、日産―NEC連合の実力が未知数という問題も付き纏う。

 縷々述べてきたように、日産は、1年半も先の話であるリーフの投入を今から前広に宣伝せざるを得ない立場にある。ところが、その宣伝通りのスペックを持つ車を商品化するには、残された時間は必ずしも十分と言えない。

 就任以来、「目先の収益やバランスシートのリストラに重心を置き過ぎている。研究開発や投資を軽視しているのではないか」との視線を向けられてきたゴーン社長。その鼎の軽重が今こそ、問われているのかもしれない。
posted by soonrail at 21:40| Comment(0) | TrackBack(3) | 日記
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